Outboxパターン
読み方: アウトボックスパターン
Outboxパターンとは
Outboxパターン(アウトボックスパターン)は、分散システムやマイクロサービスアーキテクチャにおけるデータ一貫性を確保するための設計パターンです。
特に、サービス間の非同期通信において、トランザクションの一貫性を維持しながら信頼性の高いメッセージ送信を実現します。このパターンは、データベースに「Outbox」と呼ばれるテーブルを使用し、トランザクションがコミットされる際に送信すべきメッセージを記録し、その後非同期で他のサービスやシステムに配信するという仕組みです。
分散システムでは、データの更新や処理の結果を他のシステムに通知する際に、トランザクションの一貫性を損なうリスクがあります。例えば、データベースへの書き込みが成功しても、その後の通知メッセージの送信が失敗すると、システム全体の整合性が崩れてしまいます。Outboxパターンは、この問題を解決するために考案されました。
Outboxパターンの手順
■トランザクション内でのメッセージ保存
まず、メインのデータベース更新とともに、送信すべきメッセージをOutboxテーブルに記録します。これにより、トランザクションがコミットされると、データ更新とメッセージの保存が同時に成功します。
■非同期でのメッセージ送信
トランザクションがコミットされた後、専用のプロセスやサービスがOutboxテーブルを監視し、保存されたメッセージをキュー(待ち行列)に送信したり、他のサービスに配信します。メッセージの送信が失敗した場合でも、Outboxテーブルに記録が残っているため、再送が可能です。
■Outboxテーブルのクリーンアップ
メッセージが成功裏に配信された後、Outboxテーブルから該当のエントリーを削除するなどして管理します。
ユースケース
■注文処理システム
ECサイトでの注文確定後、注文データをデータベースに保存し、Outboxテーブルに配送システムへの通知メッセージを記録します。その後、非同期で配送システムに通知が送信され、注文情報が確実に連携されます。
■金融取引システム
取引が完了した際、取引データを保存し、Outboxテーブルに記録されたメッセージを通じて他のシステム(例:会計システムやレポーティングシステム)に非同期で通知します。これにより、取引データと他システムの情報が一貫して同期されます。
■顧客管理システム(CRM)
顧客情報が更新された際に、その更新内容をOutboxテーブルに記録し、非同期でマーケティングシステムやカスタマーサポートシステムに通知します。これにより、最新の顧客情報が各システムに確実に反映されます。
メリットとデメリット
メリット
・データ整合性の維持
Outboxパターンを使用することで、データベース更新とメッセージ送信をトランザクション内で管理できるため、システム全体の整合性が保たれます。これにより、メッセージの送信とデータ更新の不整合によるデータ損失や誤送信を防止できます。
・再送信の保証
もしメッセージの送信が何らかの理由で失敗しても、Outboxテーブルに記録が残っているため、再試行が可能です。これは、システム障害やネットワークの一時的な不具合に対する耐性を高め、信頼性の向上に寄与します。
・非同期処理によるパフォーマンス向上
メッセージの送信処理が非同期で行われるため、システムの応答性が向上します。これにより、メインのトランザクション処理が速やかに完了し、システム全体のスループットが向上します。
・シンプルなエラーハンドリング
メッセージの送信が失敗した場合の処理は、Outboxテーブルから再送を行うことでシンプルに実装できます。これにより、複雑なエラーハンドリングロジックが不要になり、コードの可読性と保守性が向上します。
デメリット
・Outboxテーブルの管理が必要
Outboxパターンを実装するためには、Outboxテーブルの管理が必要となります。特に、送信が成功したメッセージのクリーンアップや、テーブルサイズの肥大化を防ぐための対策が求められます。この管理が不十分だと、パフォーマンスの低下やストレージの問題が発生する可能性があります。
・複雑なアーキテクチャ
Outboxパターンの実装には、メッセージ送信のための追加のプロセスやメカニズムが必要となり、システムのアーキテクチャが複雑になる場合があります。この複雑さが開発や運用の負担を増やす要因となり得ます。
・遅延の発生
非同期メッセージ処理を行うため、メッセージが他のサービスに届くまでに遅延が生じる可能性があります。特に、リアルタイム性が求められるシステムでは、この遅延が問題となる場合があります。
・一貫性のタイムラグ
メインのトランザクションがコミットされた後、メッセージが他のシステムに配信されるまでの間にタイムラグが発生します。この間にシステムが不整合な状態になる可能性があるため、一貫性の管理には注意が必要です。
現場の声
Outboxパターンは分散トランザクションに対し、使用できる技術の幅が広いため既存システムへの導入が比較的容易です。
特にAWSにおいては、Dynamo DB streamsを使うことでリアルタイムにイベントのパブリッシュが行えるため、Outboxパターンの導入がスムーズに行えます。
<執筆・監修>
アルサーガパートナーズ株式会社 DX技術用語集制作チーム
(2024年8月時点)